約 730,185 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2576.html
第3部 「竜の嘶き」 「ドラゴン-1」 2030年代に登場した飛行能力を備えた航空MMS。 それらは多種多様なメーカーから出された数を含めれば数え切れないほどの多種多様性を誇ったが、一応の一定の安定した戦果をあげる活躍をし、:名機:とよばれるワクで絞っていくと、だいたい10機種くらいになる。 フロントライン社の天使型シリーズ「アーンヴァル」、戦闘機型「飛鳥」、スタジオ・ルーツ社製サンタ型「ツガル」、マジック・マーケット社セイレーン型「エウクランテ」コウモリ型「ウェスペリオー」、アキュート・ダイナミックス社製ワシ型「ラプティアス」ディオーネ・コーポレーション社製戦乙女型「アルトレーネ」 といったところが安定した強さを持っている。 もちろん、各神姫に対する評価は、オーナーにより、また神姫マニアの見方によっていろいろ違ってくる。 例えば旧式で性能的には最新鋭の武装神姫には劣っていても、局地迎撃用や戦闘可能時間の違いとか、火力、防御力、搭載能力、稼働率、整備製、コストパフォーマンスなどの点も考慮にいれなければならない。 このような観点から、総合的に採点してみると、天使型「アーンヴァル」、セイレーン型「エウクランテ」、戦闘機型「飛鳥」などが、武装神姫の中で空中戦ナンバー1を競うことになる。 アーンヴァルは、スピード、ダッシュ力、上昇力および安定性、生産製の高さで、他の航空MMSよりあまりある戦闘能力を保持している。 また「エウクランテ」は軽量で高機動、また支援ユニットに可変することで高速一撃離脱の戦闘方法で一世を風靡した。 「飛鳥」はずば抜けた運動性能で、登場した2030年代初期から中期にかけて、他の航空MMSを徹底的に痛めつけている。 いずれも武装神姫の可動初期からはたらき、改良されながら長期にわたって活躍したことが、他の航空MMSよりもポイントを稼いだ決め手になっている。 もちろんその他の「ツガル」「ウェスペリオー」「ラプティアス」「アルトレーネ」にしてもそれぞれ長所を大きくいかしての活躍が名神姫として数えられている要素になっている。 それらの中で、本来ならもっと高く評価されてもいいはずなのに、地味な存在なのがカタリナ社製の「ドラッケン」シリーズである。 「ドラッケン」は航空MMSの中でも「アーンヴァル」とほぼ同等の古い航空MMSである。上記3機が軽装甲、機動性と格闘戦闘を重視したのに、対してドラッケンは頑丈さと火力、防御力で相手の小技を跳ね返す真逆の発想で設計された。 強固な装甲と重火力、それなりの機動性を持つこのドラッケンシリーズは万能戦闘機として結果的に成功をおさめ、その合理性を立証した。 2041年10月16日 天王寺公園神姫センター 第3フィールド森林ステージ ズンズズン・・・ドン・・・ドドン・・・ 天王寺公園の一角、森の中の小川を挟んで、大砲を背負った神姫が激しい撃ち合いを行なっている。 少しはなれた小高い丘で、フィールド参加神姫の待機所で複数の重武装の神姫たちがトレーラに乗って砲声を聞きながらのんびりと出番を待っている。 チーム名「ドラケン戦闘爆撃隊」 □戦闘爆撃機型MMS「シャル」 Sクラス □戦闘爆撃機型MMS「ライラ」 Aクラス □戦闘爆撃機型MMS「セシル」 Aクラス オーナー名「伊藤 和正」♂ 27歳 職業 工場設備関係メーカー営業員 とくに話すこともない知れた顔ぶれ、彼女たちは同じ伊藤の所有する神姫たちだ。 伊藤はのんびりと新聞を読んで戦闘中のフィールドからの応援要請を待っている。 シャルは自慢の武装の2mm機関砲を布で綺麗に拭いて手入れをしている。 ライラはぼけーと口を半開きにしてどんよりとした曇った秋空を眺めている。 セシルは地面を這うアリを観察している。 ラジオもネットもなく、お互いがそれぞれ別のことをしながらただ、ゆっくりと時間が過ぎるのを待つ・・・・ ダガガガガッガガン!!!ガッガガガガン!! ふいにカン高い機械音が鳴り響き、ボンボンと黒煙が戦場になびき、樹脂の焼ける独特のにおいが流れてくる。 ポーンと情けないメールの着信音が待機所に設置されているメールボックスに届く。 伊藤がカチカチとノートパソコンのメールボックスを見て待機しているシャルたちに話す。 伊藤「出撃だぞ、手前の赤チームから救援要請だ。敵の神姫にアイゼンイーグルを装備した重火力の武装神姫が出たらしい」 シャル「了解、ドラケン戦闘爆撃隊、出撃します」 ライラがエンジンのスタートキーを回す。 ドルン、ドルンンドルルン・・ルンルン・・・グオオオオオオンン まるで獣の吼え声のように強力なエンジンが唸り、心地よい振動を生み出す。 セシル「敵機は?今日は上がってくるのでしょうか?」 セシルはぼつりとつぶやく。 シャル「俺たちに救援要請を出したってことは向こうも迎撃機を出すってことだ、足の速いアーンヴァルか、もしくは格闘戦に優れた戦乙女か・・・」 ライラ「こちらドラケン2、出撃準備完了」 セシル「ドラケン3、いつでもいけます」 シャルがうなずく。 シャル「マスター、ドラケン戦闘爆撃隊、出撃準備完了、今日の武装は、2mm機関砲、多連装ロケット砲、マイクロミサイルを搭載しています」 伊藤「よし、目標は地上で戦っている陸戦MMSの支援爆撃だ。迎撃機が出るかもしれない、十二分に注意しろ」 シャル「了解しました」 ライラ「はっ」 セシル「YES、SURE」 ドドドドドン!!ズドドドドドッ!! 強力なアイゼンイーグルガトリングキャノンを構えた悪魔型神姫が前線を押し上げている、横には数体の夢魔型が護衛として付き添っている。 くぼんだ塹壕に、火器型のゼルノグラードとヤマネコ型が身動きがとれずに必死に応戦していた。 ヤマネコ型「畜生、応援のドラッケン部隊はどーした!」 火器型「まだです!まだ来ません!!」 片腕を失った騎士型が荒い息を吐きながら舌打ちをする。 騎士型「あの重機を仕留めないことには、5分も持たないぞ!!!」 剣士型「おい!!あれを見ろ!」 キラキラと黒光するネービーブルーの機体を輝かせながら、上空から多連装ロケットランチャーで爆装したドラッケン戦闘爆撃機型MMSが3機、急降下で舞い降りる。 シャル「いいか!味方の塹壕まで2メートルと離れていない、慎重に爆撃しろ!」 ライラ・セシル「了解」 バシュバシュバシュバシュッ!!! 白い噴煙を吐きながらシャルたちは一斉に悪魔型たちに向かってロケット弾を全て打ち込んだ。 夢魔型「ド、ドラッケン戦闘爆撃機!!」 悪魔型「迎撃ッ!!」 悪魔型が強化アームでがっしりと構えたアイゼンイーグルを向けて、攻撃しようとするが、ガトリングは砲身が回転するまでのわずかな空転時間を要する。 それが致命的なタイムロスとなり、悪魔型の命運を分けた。 ドドドンッ!!!ズッドオオム!! 数十発のロケット弾が悪魔型と夢魔型数体を巻き込んで大爆発が起きる。 □悪魔型MMS 「ノーザス」 Aクラス 撃破 □夢魔型MMS 「リセム」 Bクラス 撃破 □夢魔型MMS 「パッセル」Bクラス 撃破 シャル「命中命中!」 ライラ「ドンピシャリ!」 セシル「全弾命中!」 下をちらりと見ると味方の神姫たちがしきりに手を振ったり被っているヘルメットや兜を振って声援を上げている。 火器型「助かったぜ!おまえんとこのマスターによろしくな!」 ヤマネコ型「さすがはドラケン隊だ!頼りになるぜ!」 騎士型「次もよろしく頼むぜ!!」 ぐるりと味方の神姫たちの上空で機体を振りながらバンクするとシャルたちは帰り道に急ぐ。 行きはどんよりとした曇り空が今は、風が出てきたのか晴れてきて見通しがよくなってくる。 シャル「・・・まずいな、晴れたきたぞ」 シャルは嫌な悪寒がし、キョロキョロと辺りを警戒する。 チカチカと上空から黄色い閃光が瞬く。 ドガドガドガン!! 右翼を飛んでいたライラの機体を黄色い閃光が貫いたと思った瞬間、ライラの体がバラバラに空中分解して爆散する。 □戦闘爆撃機型MMS「ライラ」 Aクラス 撃破 セシル「ライラッ!!」 ウオオオオオオオオオオオオオンン!!! シャルたちの上空から4機のアーンヴァルMK-2テンペスタが雲の切れ目から急降下で襲いかかって来た。 シャル「畜生!!待ち伏せされていた!!」 バスンバスン・・・ 全身穴だらけのボロボロの体でシャルは伊藤の待つ待機所まで、黒煙を吹きながらたどりつく。 伊藤がバッと新聞を投げ出し叫ぶ。 伊藤「なんてこった、行きは3機で帰りは1機か!」 ガッシャーーン!! 地面に胴体着陸してバラバラになるシャルの武装。 シャル「クソッタレ!」 シャルはむくりと立ち上がると砂埃を払う。 伊藤「大丈夫か?シャル!!他の連中は?」 シャル「セシルは手誰のアーンヴァルに追い詰められて自爆した。ライラは粉々にされちまった」 伊藤「なにがあった?」 シャル「たぶん、アーンヴァルの改良型だ。いきなり雲の中から飛び出してきた」 伊藤「しかし、それにしてもよく無事に戻ってきたな」 シャル「こいつの重装甲のおかげだ。もっともこの重装甲のおかげで逃げ切れなかったという点もあるがな・・・」 伊藤はぽりぽりと頭を掻く。 伊藤「しかし、待ち伏せとはな・・・」 シャルは遠い目をして答える。 シャル「俺たちを襲った連中は知ってやがるんだ。鈍重な俺たちが爆撃にくるってことをな」 天王寺公園の一角にあるこの神姫センターは立地条件に恵めれた大型神姫センター店である。 市営地下鉄、私鉄、電気軌道の路面電車、路線バス、高速バスが集中するターミナルとなっており、周辺はキタ・ミナミに次ぐ規模の繁華街を形成している。ミナミの難波とは大阪市街の南玄関としての機能を二分する。 大型商業施設には、百貨店、地下街も充実しており観光地としての表情も併せ持っており、老若男女を問わず賑わいを見せている。 そのため、老若男女を問わず、近隣の郊外から暇をもてあました強力なオーナーが集中し関西でも指折の激戦地区となっていた。 シャルが他の神姫たちと軽い雑談をする。 ぎらついた目つきの悪い黒い天使型のエーベルと、胡散臭いステルス戦闘機型のフェリアだ。 □ 黒天使型MMS「エーベル」 Sクラス オーナー名「斉藤 由梨」 ♀ 22歳 職業 商社OL □ステルス戦闘機型MMS 「フェリア」 Sクラス オーナー名「今宮 遥」 ♀ 23歳 職業 商社営業員 エーベル「そうかーライラもセシルも落とされたのか」 フェリア「運が悪かったんだろ、よくあることだ・・・気にするな」 シャルはこめかみを押さえて顔を歪めて話す。 シャル「2人はバラバラにやられちまってオーバーホールだ。直るのに1週間はかかるよ」 ファリア「テンペスタの小隊か、厄介だな・・・この辺りにはあんまり見かけなかったんだが・・・」 シャル「テンペスタにこっちの武装で勝っているのは装甲と火力だけだ。よほど有利な条件でなければ空中での格闘戦では勝てない」 シャルはエーベルやフェリアにも警告する。 シャル「お前たちも注意しろよ」 エーベル「・・・」 フェリア「・・・」 シャル「まあ、注意したってやられるときはやられるんだがな・・・」 夜になり、あたりは鈴虫やコオロギの秋の虫たちの音色で溢れる。 騒がしいまでの虫の音色がピッタと止まる。 ズズンドンドドドン・・・ズンズズン・・・ 低い砲声が唸り、爆発音が響く、そして機関銃のカン高い音と照明弾が夜空を照らす。 数機のコウモリ型が夜襲を仕掛け、フィールドで砲台型が迎撃の対空攻撃を仕掛けている。 天使型のエーベルが塹壕からひょこりと顔を出す。 エーベル「やれやれ、今日も懲りずにきやがったな、コウモリの連中」 エーベルはギュムと柔らかい何かを踏みつける。 シャル「いてェ、足を踏むなよエーベル」 エーベル「おおっとシャルか?」 シャルがヒラヒラと手を振る。 シャル「今日はコウモリ型の連中しつこいな」 エーベル「フェリアの奴が露払いにさっき出撃したぜ?」 シャルはちらりとエーベルを見る。 シャル「オマエは行かなくていいのか?」 エーベルは肩をすくめる。 エーベル「連中、逃げ足が速いからな、ちょっとでも不利になるとすぐ逃げ出す」 はあーーーとシャルは重いため息を吐く。 シャル「待ち伏せが来るってことは分かっていたはずなんだけどな・・・それをしっかりとライラたちに警告できなかったのは俺のミスだ」 エーベル「シャルを狙ったテンペスタは機関銃が故障していたんでしょう。でなきゃシャルもやられていた。シャルだって危なかったんだ、戦いなんてものはどうしようもないときのほうが多いんだ。イチイチ気にしてたら気が持たないぜ」 シャルは顎に手を付いて考え事をする。 シャル「・・・・・・」 エーベルが顔を上げる。 いつの間にか辺りは静さを取り戻し、虫の音色が再び聞こえてくる。 エーベル「コウモリ型もどこかにいっちまったようだ」 シャルがきょろきょろと警戒する。 シャル「今日は戦艦型の艦砲射撃は無さそうだな」 エーベル「明日も速いし今日は早めに寝るよ」 秋の夜は、少し肌寒い・・・・ To be continued・・・・・・・・ 次に進む>「ドラゴン-2」 トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/332.html
「と、言うわけでこれからよろしくお願いします。明人様」 「お願いいたす。若君殿」 「……………」 ちょっとまて 一体全体なんのことやら全く意味がワカリマセン 「あのさ、香憐ねぇ? もう一度最初から説明してくれない? ちょっと俺、最近ややこしいことが起き過ぎて頭ん中が大混乱ですよ? 大根Ran。師走だから大根も平気で走っちゃいますよ?」 昴が帰国してから一週間 その間にも昴たちの引越しやら何やらでいろいろ急がしかったので、やっと一息ついたところにやってきた香憐ねぇと一人の女の子 話を聞くにもなんだか凄い勢いで一通り説明されたのだが、俺の耳に異常があったのかもしれない。いや、そう思いたい 思わせてくれ えっと…聞き間違い…ですよね? 「ですから。私とこの子も今日からこのマンションに御用になると言ったのです」 「うん、それは聞いた。色々つっこみたいがとりあえず置いておいてさ…何でそうなったかを聞いてるんだよ。分かって言ってるでしょ? 香憐ねぇ」 「そのことについてはもう一度説明したところであまり意味を持たないと思うのですが…そもそもこれはすでに決定事項…」 「い・い・か・ら」 少し凄みを聞かせて言う俺 今日の香憐ねぇは少し、いや、やたらと強引に話を進めるからこっちも強気でいかないとあっという間に流されてしまう 「わ、わかりました…それではもう一度お話しいたします…。あれは昨日の夜のことでした…」 私は夕食後に自分の書斎に来るようにと兼房様に申し付けられまして、その通りに一人で兼房様の書斎をお尋ねしました… 「兼房様。香憐です。お申し付けを受け参上しました」 私は兼房様の書斎前の廊下でいつものように入室の確認をしました 「来たか。香憐よ、今そこにはお主一人か?」 「え? はぁ…」 書斎の前の廊下に人がいないことを確認 「私一人ですが…」 「そうか、入ってくれ…」 その時の私はいつもの兼房様と少しだけ違う口調に違和感を感じていました 「失礼いたします…」 部屋に入ると兼房様はいつも通りに書斎机に腰掛けていらっしゃいました。ただ、いつもと違うのは、兼房様の隣に私の知らない女性が立っていたのです 「ご苦労じゃ、香憐…。さっそくじゃがお主にはひとつ任せたいことがある…」 「は、はっ! 何なりとお申し付けください」 「そう硬くならんでもよい。なぁに、ちと厄介かも知れんがわしはお主を信頼しておるし、お主の技量も心得ておる」 「そのような勿体なきお言葉…」 「それでじゃな、香憐、お主………」 「…………」 「武装神姫に興味はあるかの?」 「……はい?」 「じゃから、武装神姫を持つ、武装神姫のマスターになる事に興味はあるかと聞いておるんじゃ」 「あ、あの…それと今回のお申し付けと何の関係が…」 「いいから質問に答えるんじゃ」 「は、はい。興味は……少し…ありますが…」 嘘ではありませんでした 明人様がいる世界 それを追うようにして葉月様、昴様もなられた武装神姫のマスターというもの それにノアさん、ミコさん、ユーナさん、レイアさん、ランさん… 彼女達、武装神姫に対しても私は興味を抱いていました 「そうかそうか、ならお主に任せようかのぅ。ふぉふぉふぉ」 「あのう…それで、いったい何を…」 「人型神姫インターフェイス。その試作機のモニターを、じゃよ」 「人型…神姫…インターフェイス?」 その後、私は兼房様から鳳条院グループとフェレンツェ博士との共同プロジェクト、 人型神姫インターフェイス、ノアさん達の秘密などについてのお話を聞きました 「そうだったのですか…ノアさんやミコさん達がその試作機…」 「その通りじゃ。彼女らは勿論、マスターである明人や昴にも秘匿義務がある。今まで秘密にしていたのはあやつらの責任ではない…そのことはどうか責めないでやってほしい…」 兼房様はいつもとは違う鳳条院グループの総帥様のお顔でした… 「責めるも何も…明人様たちは何も悪いことなどなさっておられないではありませんか。未来における神姫と人との新しい関係や生き方の可能性のために頑張っていらっしゃるのです。秘匿義務にも納得がいきますし、むしろ私はそんな彼らを誇りに思います…」 「そうか…そういってくれるとあやつらもわしも助かる。しかしじゃな、最近、裏で模造品などが出回ってるらしいという報告も聞いておる。」 「模造品…ですか?」 「うむ、明人が知り合いから仕入れた情報じゃ」 そう言うと兼房様はため息混じりに話を続けました 「人の口に戸は立てられんと言うが…この件はわしらサイドから洩れたのか、教授サイドで洩れたのかは不明じゃが、それがわしらの開発概念の大筋を得たものだという事は確かじゃ。まぁ、不幸中の幸いか、模造品は武装改造や戦闘ができるレベルまでには至っておらんらしい。わしらの開発概念を、神姫を下らん地域紛争などに利用するような者を出す最悪の事態にはなっておらんようじゃ。今、その件に関しては明人達に一任しておる」 「…………」 「よいか、香憐よ。いくら正しくて未来の可能性を持つ研究であっても裏に潜む危険性には無視できないものがあるのじゃ。それは過去の結果、ダイナマイト然り、原子力然り、…レスティクラム然り、じゃ。」 「……つまり、大きすぎる力、便利すぎる力は争いを呼ぶと、そう仰りたいのですか?」 「そうじゃ。無論、彼女ら…そして彼女らのマスターがそんなことを望んでいるはずは無いのじゃが…わしらには責任がある。彼女らが非道な者の手によって利用されぬため。わしらにはまだ時間が必要なのじゃ…」 「サンプルデータの採集のためですか」 「うむ。だからわしはお主らを信頼してこの秘匿義務を課しておる。このことはたとえ葉月であろうと例外ではない。わかるな?」 「……わかりました」 正直、葉月様に秘密ごとを作る事は躊躇われました。それでも私は… 「明人様もその道を進んでおられるのです。仕えるものとして、師として、私は明人様の進む道を共に歩みましょう」 「そうか…ふっ、あいかわらず明人は幸せ者じゃの…」 「あ、えと、その… と、ところでその…私の神姫となる方は…」 「おう、そうじゃった、紹介が遅れたのぅ。彼女がおぬしの神姫じゃ」 「へ?」 鳳条院家に仕える私も、そのときばかりは迂闊にも間の抜けた声を出してしまいました… 「お初にお目にかかります。手前、“たいぷ”紅緒、侍型の“えむえすえす”にてござる。姫君様…」 先ほどまで兼房様の横にいた女性が私の前に来て、いきなり膝をついてそう言いました 「ひ、姫君様?」 姫はどちらかと言うとあなたなんじゃ……って 「あ、あなたがインターフェイスの試作機さんですか?」 「は、手前は“たいぷさいふぉす”と同型の試作四号機、つまるところ昴殿の神姫、ランとは双子の姉妹の様な立場になります」 「はぁ…」 私は素直に驚いていました 前にも一度、インターフェイスのノアさんには会っているのですが、言われてみても目の前の彼女は人間にしか見えないのです… 「まさかここまでとは…」 「感心するのはいいが、頼みたいことにはまだ続きがあるんじゃ」 「続き…ですか?」 「うむ、それはのぅ…………」 「と、言うわけでこれからよろしくお願いします。明人様」 「お願いいたす。若君殿」 「……………」 ちょっとまて もっかい言うぞ? ちょっとまて… 「あのさぁ、だから肝心なところを省略しないでくれる?」 「ですから、私たちが鳳条院本家にいては秘匿も何もありません。なのでこのマンションに…」 「だから! なんだってこのマンションに来ることになるんだよ!!」 「…はぁ、もう一つは秘密だったんですけどねぇ……」 「よいのですか?」 「仕方ありません。私が兼房様より申し付かったのは明人様の護衛です」 「……はぁ? 護衛だぁ?」 「はい、八相のマハ派からの襲撃に対してできる限り明人様のお側役として仕えるようにと…。目には目を、歯には歯を、彼ら八相には同じくして我ら八相を…と」 なんちゅうまた、過保護な…御袋といい爺さんといい… 「それに…良い理由になるのです。『明人様のお側役をいいつかった』と言うことならば葉月様にも納得していただけるでしょう?」 「そ、そりゃ…」 確かにそうだな… 香憐ねぇがいきなり俺の実家から出て独り暮らしするのは無理がある 「それに私達はこの部屋にご厄介になるわけではありません。隣の部屋を…」 「まて、隣は確か空き部屋ではないはずだ。今朝だって俺は隣の人と挨拶したぞ」 「隣の方にはお願いしに行きました。快く承諾していただきましたよ?」 「………何をした」 「何も。………ただ菓子折りを持って行っただけですよ(ボソ」 ………香憐ねぇ、菓子折りって中は…大体そのやり方ってほとんど●剣財閥と変わらない… 「だけどなぁ…元々俺は家(本家)の力や過保護さが嫌で出てきたんだから…」 「いいじゃねぇか、明人」 そう言ったのは昴だった いつからいたんだ、おまえ…… 「香憐ねぇ達がこっちに来てくれりゃあ楽しくなるじゃねえか」 「楽しくなるってお前…そりゃそうだがな…」 「それとも…明人様は私が来ることは…お嫌…なのですか?」 「うっ……;」 香憐ねぇ…その目は…… 「ご迷惑…ですか?」 「う、ううぅぅぅ……;」 だから…その目は反則… 「流石香憐ねぇだな…明人の弱点『下から見上げるウルウル目線』の破壊力はハンパねえゼ…」 昴! お前、親友のピンチ(いろんな意味で)って時に人ごとのような解説入れてんじゃねぇ!! 「明人様……」 「ぐあっ……わ、わかったよ。降参だ」 確かに認めるよ 昔から苦手だったんだよなぁ 雨の日の捨て猫を見つけたときの罪悪感から見逃せない感じと言うかなんと言うか… 「それでは明人様…」 「なんだ、その…ヨロシクな」 「はい! 明人様」 「若君殿、ご理解痛み入る」 「あ、ああ…ところでその若君殿っていうのは何なんだ?」 「我が姫がお仕えなさる方なので若君殿と……」 …姫は誰かに仕えるものなのか? 「その呼び方なんだか…どうにかならないかな?」 ノアたちの『ご主人様』よりもガクッてなるんだよ… 「この子になにを言っても無駄ですよ、明人様。私のこともいまだ姫君様なんですから…そんながらじゃないんですが…」 香憐ねぇもガクッてなってる…って、最後のは俺の台詞… 「手前の主は男性なら『殿』、女性ならば『姫』にて候。これは“たいぷ”紅緒の“でふぉると”でござる」 「それはあなただけよ…」 「(姫君様って言うよりはオ●カル様って感じだよな…)」 「昴様、何か仰いましたか?」 「い、いえ…なにも…;」 余計なこと言った昴が香憐ねぇに睨まれる 自業自得だ 「と、ところでさ、この子、名前は?」 「おっと、申し遅れました。手前、姫君に頂いた名を“孫市”と申します」 「孫市って…雑賀 孫市?」 「そうです。この子は刃物よりも銃のほうが得意らしくて…侍型ですし時代的には雑賀衆がいいかと…」 「なんだか安直だなぁ~」 お前のランスロットだって似たようなもんだろうが… 「やはりそうでしょうか。私も少し…」 “ガタン!!” 「うわわ!!」 香憐ねぇが最後まで言い終わる前に孫市はいきなり席を立ち、昴に向かってつかつかと詰め寄った 「我が名は主、香憐様より頂いた手前の武士(もののふ)としての誇り! その名を汚すのであればたとえ昴殿でも…」 「お待ちになってください」 「ラン?」 隣の部屋にノアたちと待機(主にミコ、ユーナが騒がしいと話が進まないので…ノアは監視役)させていたランが俺たちのいるリビングに入ってきた 「久しいな、今は…ランスロットか。元気そうでなによりだ」 「あなたこそ、お元気そうですね…」 にらみ合う二人…なんだか感動の再会って感じではなさそうなんだが… 「(この二人って双子のようなものなんだよな? どっちが姉とかあるの?)」 「(さぁ……二人の口調からしてそんな感じはなさそうですが…)」 「ランも主に仕える騎士なれば、我が心も解るであろう?」 「そのことについては謝ります…しかし! いくらこちらが悪くても、私のマスターに敵意を向けたことについては見逃すわけには行きません…」 おいおいおいおい なんか言ってることが双方、無茶苦茶になってないか? 「ふっ、それでこそ我が半身(のようなもの)……いいだろう。主に対する忠誠心、どちらの方が上か…」 「ええ、この際はっきり決めてしまいましょう…」 「「え? え? ええ?」」 ことの原因らしき二人は慌てふためくばかり マスターとして日が浅いのだが… なんとも情けないな、オイ… 「ちょ、待てよラン! いつもの冷静なお前らしくもない…」 「そ、そうですよ孫市! 私達が争っても仕方がありません!」 「昴さん、今回だけは止めても無駄です」 「右に同じ、姫君殿、無駄でござる」 「騎士の『忠誠』の誇りにかけて…」 「武士の『忠誠』の誇りにかけて…」 「「決闘だ!!!」」 「「「え、ええええええぇぇぇ~~~~~~!!??;」」」 なんなんだよ、この展開は…… 追記 そのころ隣の部屋では… 「ね、ね、ノアねぇ。何かさっきから向こうが騒がしくない? 気にならない?」 「なりません。大人しくしておきなさい、ミコ」 「ちぇ~。ん? どうしたのユーナ」 「いや……最近なんか新キャラも増えてきたしさ…だからアタシもアニキと一緒でちょっと大根Ran中なんだよ…」 「あ~、増えるのは楽しくなっていいけど私達の出番が少なくなったりするんだよねぇ……今回みたいに…」 に、睨むなよミコ…次はちゃんと出番あるから 「…ホントだろうな」 ………May Be 「またそんなオチかい!!」 続く メインページへ このページの訪問者 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/257.html
2つ名 辞典 各作者様の登場人物紹介から抜粋させていただきました。 なお、Wikiに登録及び出演しているキャラクターのみです。 また、新キャラや新たな2つ名誕生の際は各作者様ご自由に更新OKです。 [非]= 非公式バトル [ロ]= ローカル(一部地域でのみ通用) [自]= 自称 《マスター編》 《アキース・ミッドナイト》・橘 明人 橘明人とかしまし神姫たちの日常日記 《G》・日暮 夏彦 HOBBY LIFE,HOBBY SHOP [非]《屍ケン》・ケン Mighty Magic 《死の恐怖-スケイス-》・橘 明人 橘明人とかしまし神姫たちの日常日記 《ソードマイスター》・浅見 秋人 春夏秋冬 《Dコマンダー》・日暮 秋奈 HOBBY LIFE,HOBBY SHOP [ロ]《公式武装主義者(ノーマリズマー)》・マイティのマスター Mighty Magic 《破壊大帝》・日暮 秋奈 HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《神姫編》 《紅き目の狙撃手》・十兵衛(銃兵衛) 凪さん家の十兵衛さん 《うさ大明神様》・ジェニー(ジェネシス) HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《Encount Striker》・ジェニー(ジェネシス) HOBBY LIFE,HOBBY SHOP [非]《クリムゾンヘッド》・シエン Mighty Magic 《紅の牙》 アリア ・ねここの飼い方 《紅の剣客戟》・十兵衛(真・十兵衛) 凪さん家の十兵衛さん 《見敵必殺の神姫 》・ジェニー(ジェネシス) HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《黒衣の戦乙女》・リン 武装神姫のリン 《銃剣士(ガンブレイダー)》・ミコ 橘明人とかしまし神姫たちの日常日記 《十兵衛ちゃん》・十兵衛 凪さん家の十兵衛さん 《神速の紅眼》・十兵衛 凪さん家の十兵衛さん 《スピットファイア》・アガサ ねここの飼い方 《青龍》・ベルセルク HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《隻眼の悪魔》・十兵衛 凪さん家の十兵衛さん 《B3(ビーキューブ)》・バーニング・ブラック・バニー 《紅霧の剣》・十兵衛(真・十兵衛) 凪さん家の十兵衛さん 《雷龍剣(サンダーソード)》・ベルセルク HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《乱射魔(トリガーハッピー)》・コニー 岡島士郎と愉快な神姫達 《緑色のケルベロス》・ノアール 橘明人とかしまし神姫たちの日常日記
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/56.html
【武装神姫】セッション1-0【SW2.0】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm17931932
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/109.html
【武装神姫】セッション2-4【SW2.0】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18827180
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/105.html
【武装神姫】セッション1-3【SW2.0】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18179759
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/158.html
西暦2036年。 第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった、2006年現在からつながる当たり前の未来。 その世界ではロボットが日常的に存在し、様々な場面で活躍していた。 神姫、そしてそれは、全項15cmのフィギュアロボである。“心と感情”を持ち、最も人々の近くにいる存在。 多様な道具・機構を換装し、オーナーを補佐するパートナー。 その神姫に人々は思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。名誉のために、強さの証明のために、あるいはただ勝利のために。 オーナーに従い、武装し戦いに赴く彼女らを、人は『武装神姫』と呼ぶ。 ~プロローグ~ 其処は鶴畑家邸内に構えられた武装神姫専用棟。 この場所に置いて、あの鶴畑3兄妹の武装神姫たちが生まれ、訓練され、使役され、そして朽ち果て、棄てられていく。 そしてその施設の一つ、リアルバトル様式の実験場にて、新アラエルのテストが行われようとしている。 フィールド内、アラエルの周囲はヴァッフェバニーと新型のフォートフラッグが取り囲む様にして配置されており、 さらにはその周辺に渡って多数の武装神姫が配備されていた。 「ふふふ……いいかアラエル、貴様には最新の武装と最新型のシステムを組み込んである。 この程度の敵に敗北するようでは俺の武装神姫は名乗れん! その時は朽ち果てるだけ、だ」 施設の地下にある管制室から無数のモニターで状況を観察しているのは、鶴畑家の次男である鶴畑大紀。 大紀は前回マイティに敗れた旧アラエルを廃棄処分にし、修正プログラムを加えた上で、その戦闘データを新アラエルに移植したのだ。 更に鶴畑家で独自に開発中の制御プログラムを実験的に導入し、反応速度と処理速度の大幅な向上を図っている。 また各部の強度も向上させており、体当たりされただけで翼が空中分解という醜態を晒さないように工夫されている。 スペックデータだけであれば長男興紀の誇るルシフェルに匹敵し、それはこのテストによって実績となって証明されるはずであった。 「よし、開始しろ」 大紀の指示の元、オペレーター達が神姫に攻撃コマンドを命令していく。 アラエル周囲の神姫は全て中央から一括コントロールされており、いわば唯の人形と相違ない。 そして嵐のような一斉砲撃が始まった。 ヴァッフェバニーのSTR6ミニガンが、カロッテTMPが、フォートブラッグの主砲、ミサイルランチャー、他あらゆる火器が、アラエル唯一点を目指して突き進んでゆく。 そして着弾、爆発と煙でその姿は視認不可能。 たが次の瞬間、周囲を包囲していた最前列の神姫の頭が次々ボトボト地面へ堕ちてゆき、不本意な大地との接吻を余儀なくされる。 アラエルが指向性レーザーで首との接合部をひと薙ぎにしたのだ。しかもアラエル本体は無傷。 翼に無数に設置されたレーザー及び迎撃用ミサイルによる相殺で、完全にその攻撃を防ぎきったのだ。 今度は、格闘装備を展開した十数体の神姫が一斉に飛び掛る。 しかしアラエルは冷静に、危険度の大きい敵機からレーザーを浴びせ、確実に、そして圧倒的な速度で次々と沈黙させてゆく。 それはギロチンの処刑を彷彿とさせる様な光景だった。 レーザーがひと薙ぎする度に複数の神姫の首が胴体との別離を余儀なくされ、苦しみを訴える間もなく意識が奪われるのだ。 やがてフィールドには沈黙だけが残される。動いている神姫は既にアラエルのみであった。 「ふん……100体仕留めるのに3分26秒か、悪くはないな。よし上がれアラエル、データを元に再検討を行う」 しかしアラエルは動かない。 ただ佇むだけで、その目からは生気や意思が一切感じられない。まるで夢遊病者のようである。 いつもの様に従順に「イエス、マスター」との返答がくると信じきっていた大紀は不快感を露にし。 「おい、俺の言うことが聴けないのか! 初戦でいきなりぶっ壊れやがったのか!? この役立たずめ!!!」 罵倒を受けても、尚一切の反応を示さないアラエル。 と思われたその時、ギギギと錆付いたブリキのロボットのように再起動すると、全身に装備された全武装を最大出力で乱射し始めた! 「やめろアラエル! 廃棄処分にしちまうぞ、俺の言うことが聞けないのか!?」 そうマイク越しに叫んではみるものの、全く主人の意思に従うそぶりは皆無である。 最大出力のレーザーは施設そのものにも大きなダメージを与え、現場は凄惨なものとなっていた。 人間では危険すぎてとても近づけず、神姫によって拘束もしくは破壊しようとしてもその狂った戦闘能力は何者をも寄せ付けようとはしなかった。 破壊神と化し近づく者全てを、いや周囲のあらゆるものを灰塵に帰していく。 やがてその純白のボディにうっすらと内部から赤い色が染み出してくる。 過剰出力で発射し続けたためにオーバーヒートを起こしているのだ。 「やめろ! やめるんだ! やめてくれぇぇぇぇぇ!?」 エマージェンシーコールと共に、大紀の悲鳴が管制室に響き渡る。 ……やがて、限界を迎えたアラエルのジェネレーターは融解し、辺りは閃光に包まれた…… ~ねここの飼い方・劇場版~ ミィ~ンミィ~ンミィ~ン、とセミの鳴き声が暑苦しく聞こえる頃。 「あ~つ~ぃ~の~……」 「暑いですね……」 「暑すぎるわね……」 私たち3人はノびていました。夏休みに入ったばかりなのに、その日は運悪く点検による一斉停電の日でして。 そして更に運が悪いことに、地獄のような暑さだった……温度計をみると目眩がしそうな気温を指している。 という訳で私たちは居間に倒れこむようにしてぐったりと。 「ねここ~、雪乃ちゃぁん。お昼どうするぅ~……?」 べっちゃりと床に這い蹲る格好でそういう私、でも冷たいものしか食べたくないわ…… 「ねここ~ぉ~、カキ氷ぃ~……」 「いいわねぇ……でもウチには電動式のしかないのよ」 それを聞いて、へにょりとたれるねここ。私も同じ気分だけどねー……トホホ。 「あーもー……こうなったらエアコンの効いてるお店に逃げるしかないわね……ここからだと、エルゴが一番近いかしら」 老体に鞭打つようにして何とか立ち上がる私。 ここにいては死んでしまうと思えるほどなので、動きたくなくても動かなければ…… 「行くわよ~、さぁさ二人とも乗って。あ、団扇で私扇ぐの忘れないでよね」 「はぁひ…ぃ」 と、よろめく様な足取りでエルゴへ向かったのでした。 「生き返るぅ♪」 「サイコーなの~☆」 という訳で、あの蜃気楼のような街並みを死の行進の如く突破してエルゴにたどり着いた私たち。 自販機コーナーで命の一杯を満喫しているところです。 改めて店内を見回してみると、夏休みに入ったという以上に人が多い気がする。やっぱりみんな逃げてきたのかしらね。 「ねここ、せっかくだからバトルでもする?」 「う~ん、後でがいいの。今はまだヘロヘロぉ」 と、ぐんにょりしながら言う、ねここがここまで元気がないのは珍しい。 ま、私も今の頭だと指示出来なさそうだしね。 という訳で、スクリーンに映し出されている対戦に目をやる私たち。 戦っているのはストラーフとアーンヴァル。 どっちも常連のサードリーグの人なんだけども、私にはどちらも以前見た時よりもかなり動きが鋭くなってるように思える。 上達したのだろうけど、なんだろう…… 酷い言い方かもしれないけど、短期間に上手くなりすぎ……とでも言うのかな。 「……あぁ、そっか。運動パターンがどっちも一緒なんだ」 出荷時に神姫にプリセットされた戦闘用プログラムは基本的に同一だから、箱から出した時や経験値が殆どないときは 同じタイプであれば、どの娘もほぼ同じ動きをするわけで。 でもある程度成長してくると、同じタイプでも一人一人の個性が生まれて、全く違う動きをするようになる。 それは全ての神姫が自分の経験を元にして新しい動きを生み出すからであって、例えばねここと同じような動きをする神姫がいても、 ねここと全く一緒の動きをする娘はいない。 それにプリセットされた動きといっても、タイプ別のパターンはあるわけで。 なのにあの二人は、タイプも違うのに行動パターンが妙に似通っているんだ。 「や、美砂ちゃんこんにちは」 「あ、マスター」 私が観戦しながらそう思慮を巡らしていると、いつの間にかエルゴの店長が後ろにいて。 「難しそうな顔してたけど、あれ気づいたのかい?」 と、主語を省いて問いかけてくる。 「えぇ……同じ様な動きしますよね。あの二人って親友とかじゃありませんでしたよね?」 「ああ、そうだね。此処で顔をあわせる程度の関係だと思うよ。 ……まぁ、恐らくなんだけど、多分アレを使ってるんだろうな」 微妙な表情で、妙に言葉を濁す店長。 「アレ? 何かあるんですか」 ん、と店長は声を一段下げて 「多分だけどね、HOSを使ってるんだろうな」 「何ですかそれ?」 「ん、ハイパー・オペレーティング・システム、通称HOS。 まぁ一言で言うと武装神姫の動きや思考を戦闘用に最適化するためのものだね。 乗せるだけで平均30%は性能が上がるって言われてるよ。」 「へぇ、そんなものが出てたんですか。知りませんでした」 私はソフト面の改変は殆どしないし、やっても自分で処理してしまう事が多いので市販品については疎かったり。 「出てるんだよ、出したのは傘下のメーカーのほうだったと思うけどね。 今じゃかなりのユーザーが使ってるよ。手軽に能力UPが図れて、しかも激安ってね。 でも俺はあまり好かないな。確かに性能は大幅に上がるかもしれないけど、あれは神姫の個性を殺すようなシロモノだからね。 確かに強くはなれるかもしれない。でもそんなものに頼った強さは本物の強さじゃない。本物の強さというのは……」 と、そこまで話して店長はハっとなって 「いや、すまなかったな、こんな話お客さんに聞かせるモンじゃないよな。忘れてくれれば有難いよ」 「いえお構いなく。でもそうですね、ジュース1本づつ奢ってくれたら忘れてあげます☆」 「ハハハ、まぁいいさ。それくらいならね、何がいい?」 「それじゃあですね~……」 そうおちゃらけてみたけど、その話をしている時の店長さんの顔がとても真剣で、とても怖くて、そして悲しそうに見えたのが印象的でした。 「さて、やっと落ち着いてきたし。一試合やっちゃいましょうか~」 「お~っ☆」 店長さんから2杯目のジュースを強奪した私たちは、フル回復。 ねここも雪乃ちゃんも戦闘用装備に換装して準備万端だ。 「さてさて、誰がお相手になるのかしらね~」 とその時 「キャァァァァァァァァァァァ!!!」 いきなり対戦ブースの方から聞こえてくる絹を引き裂くような悲鳴。 振り向くと、そこのスクリーンには相手がダウンしてるにも関わらず、延々と相手の顔面を殴り続けるアーンヴァルの姿が。 相手のストラーフの顔はフレームから歪んでしまっている。バーチャルとはいえやり過ぎなのは明らかで。 私は何かトラブルがあって、感情が振り切れて(つまり激怒して)しまったのかと思ったけど、アレは違う。 顔は無表情、あらゆる感情が消え去りただマシーンのように相手の顔面を殴るのみ。 マシンに駆けつけた店長が、急いでマシンを停止させようと機器を操作する。 「……くそっ! 試合が終わらない、なんでだっ!?」 だがマシンは止まらない、店内が段々騒然としてくる。 それ以前に、あんな状態になる前にジャッジAIが判定を下しているはずなのに。 「電源を抜いたら?」 私も傍らに駆けつけて、そう言ってはみるものの。 「ダメだ、今下手に電源を抜いたら、電脳空間内にいる二人のデータが破損する恐れがある。 ……!? いつの間にか識別信号が味方同士になってる。だから終わらないのか!」 「変更できますか?」 「いや無理みたいだ、二人のデータから何か流れてきてるみたいでな。……電脳空間に乗り込んでって、二人を直接倒せばあるいは……」 「ねここが、行くよ」 え?、と驚く店長。 「あんなの見ていたくないもん。ねここにできる事があったら、やるのっ」 「私も行きます。ねここだけを危険な目にあわせる訳には、行きません」 雪乃ちゃんもそれに続く。 私は何も言わない、ただ微笑んで二人を送り出してあげるだけ。 店長さんは一瞬何か言いたげだったが、すぐに気を取り直すと 「わかった、二人にお願いする。でも俺の方もジェニーをすぐ送り出すようにするから、二人は無茶しない事、いいね」 と、二人に任せてくれた。 「それじゃ、隣の筐体に入って。すぐに繋げるから」 「……何か空気が違う感じがしますね、ねここ」 「うん、嫌な感じがするの」 そして二人はそのフィールド、ゴーストタウンへと降り立っていた。私もヘッドギアを付けて、二人のサポートと援護。 『二人とも、目標は前方500にいると思われるわ。出来るだけ早く叩いて頂戴……それと、辛いけど頭部を破壊して。 100%確実に退場させるにはそれしかないの。悪いけど……』 さすがにこんな言葉を二人に伝えなければいけない自分が嫌になる。しかも手を汚すのは私じゃない、あの娘たちなのに…… 「……心配しないで、みさにゃん。ねここは大丈夫……それに、そうすればあの子たちを助けられるんだから…っ」 『………お願い、ねここ』 ……強くなったね、本当に。 「……ねここ、向かってきます。二人とも!」 と、雪乃ちゃんが言うが早いか、レーザーライフルの連射が二人を襲う。サードリーガー、まして暴走中とは思えない正確な射撃だ。 「とぉっ!」 だけどねここ達には当たらない。二人は壁や十字路の死角を駆使して、器用に攻撃を回避しつつ接近していく。 と、壁にドォン!と着弾。壁が粉々に吹き飛びビルが半壊する。 「ふぅ、セーフぅ」 壁伝いに移動するねここに、ストラーフがグレネードを放ったのだ。 頭部に大きなダメージを負っているはずなのだが、動きは通常時と変わりなく、それが不気味さを増大させている。 「ねここはアーンヴァルのほうを! ストラーフは私が引き受けます」 「了解っ!」 言うが早いかシューティングスターを全開にして一気に突進するねここ。 ストラーフはそのねここに対して攻撃を行おうと 「させませんっ!」 雪乃ちゃんが左腕に装備したガトリングガンでストラーフを蜂の巣に。サブアームでガードするものの、全身に満遍なく被弾。 さらにグレネードランチャーにも弾着、爆発。その爆風を全身に浴びてしまうストラーフ。 既に装甲はメチャクチャに撥ね上がり、既に装甲としての役割を果たさなくなっている。 見た限り駆動系の一部も破損しているはずだ。 普通ならとっくに動けなくなっているはずなのに、しかしまだ動く。 その不死身さはゾンビを連想させる…… 「……止むを得ませんね」 姿勢を低くして一気にダッシュをかける雪乃。 ストラーフは突進してくる雪乃をメッタ斬りにしようと、自身の腕とサブアームでアングルブレードとフルストゥ・グフロートゥを構え、 タイミングを計って一気に振り下ろす! が、雪乃は直前に横に細かくステップ。 そのまま相手の頭上へジャンプし、ストラーフの脳天、ほぼゼロ距離から蓬莱壱式を叩き込む! それは頭部に直撃、完全破壊。さらに胴体にも致命傷を受けたストラーフはそのまま倒れこみ、やがて消滅していった。 一方ねここはアーンヴァルに向けて突撃。 「このくらいじゃ、当たらないよっ!」 確かに相手の射撃は正確だけども、十兵衛ちゃんに比べれば隙だらけ。 ねここは紙一重で回避し続け、あっという間に白兵レンジへと持ち込んでしまった。 と、不利と悟ったのか空中へ飛翔しようとアーンヴァル。 でもそうは問屋が卸さない。 『ねここ、一気に決めちゃってっ!』 「了解なのっ。いっくよー!」 ジャンプと同時にシューティングスターを吹かす! と、一気にアーンヴァルの目の前に出現する。 シューティングスターは空中での機動性こそ殆どオミットしてあるけれど、その推力に任せてある程度飛ぶことは出来るのだ。 「とりゃーっ!」 ねここはワイヤークローを射出、そのワイヤーでアーンヴァルをがんがらじめにして地上に落下させる! 「ごめんね……っ」 体制を立て直そうと立ち上がったアーンヴァルに対し、ねここが迫る。 その左手にはドリルが装備されていて……一気に高速回転、唸りをあげる! 「ドリルクラッシャー!!!」 ……次の瞬間、ドリルはアーヴァルの頭を完全に粉砕していた…… やがてキラキラとポリゴン粒子になり消えていくアーンヴァル、どうやら成功したみたいだ。 『ねここ、雪乃ちゃん。変な影響が出る前に二人とも戻ってね』 「はぁいなの」 「了解」 「……ぅ、ぅぅん。あれ、ますたぁ?」 「よかったぁ…っ、なんともないのね!?」 「ぅん、平気かな……ボクどうしちゃったんだろぅ」 目を覚ました神姫と、その神姫を抱き上げて喜ぶマスター。 無事に再起動した二人を見て、ほっと胸を撫で下ろす私達。二人の意識は無事元のボディに戻ったみたい。 ただ原因は不明。店長さん曰くウィルスの存在もあるけど、現時点では確認されていないとの事。 店長さんからは当事者たちには、二人の神姫は当分の間バトルは止めた方がいいという事を言っていました。 で、ねここ達も念のためチェックをした後帰宅、ということに。 「今日はすまなかったね、迷惑ばかりかけてしまって」 「いえ、気にしないでください。ねここたちが選んで決めたことですから」 と会話している私達。 この時はまだ、漠然とした不安を抱えながらも、あれ程の事件に発展するとは夢にも思っていなかったのです…… 続く 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1329.html
私たちは、休憩スペースの長椅子にならんで腰掛けて(マスターさんは缶ジュースを片手に普通に、私は正座でです)、トホホな雰囲気でぼーっと天井に吊るされたリプレイモニターを眺めています。 「終わりましたね……」 「終わっちゃいましたね……」 モニターを見ながらぼそっと呟くマスターさんに、私も視線を動かすことなく答えます。 「あっという間でしたね」 「あっという間でした」 「………………………………」 「………………………………」 しばしの沈黙。 「………………負けちゃいましたねぇ」 「………………負けちゃいました」 「………………手も足も出ませんでしたねぇ」 「………………けちょんけちょんでした」 ………………えー、お恥ずかしい話ですが、上記の通り私たちは負けました。 それも完敗です、惨敗です、敗軍です、まさに負け犬です。 対戦相手は同レギュレーションのツガルタイプでしたが、そこかしことカスタムされて、あちらはその高機動力で遠距離を保ち、こちらの攻撃は回避されて、逆にあちらからはビシバシ狙撃されて、まさにいい所ナシの一方的と言う他ない内容でした。 私は膝をマスターさんに向けなおし、深々と頭を下げます。 「マスターさん、恥ずかしい戦いぶりで本当に申し訳ありませんでした!」 ううう、戦闘開始前の能天気に構えていた自分に、ハウリングサンダーをブチかましたい気分ですっ! 「いえいえ、こちらこそロクな指示も出せなくてすいませんでした」 身をこちらに向けなおし、負けじと頭を下げるマスターさん。 「ああ、そんな勿体無い……! この度の醜態は、すべて私の未熟ゆえで……!」 「いえいえ、僕のほうこそ犬子さんの足を引っ張ってしまって……!」 「いえ私こそ……!」 「いえ僕こそ……!」 武装神姫と差し向かって頭を下げあうマスターさんの姿は、通りすがる方々にわりと奇異の目で見られていたようですが、当人である私たちにはそこまで気にする余裕はありませんでした。 「ですが、その……」 そんなやり取りを一通り済ませて、私たちは顔を上げました。 マスターさんの表情を窺いつつ、私は次に言うべき言葉を捜して、指をもじもじさせます。 そんな私の様子を見たマスターさんが、優しくはにかみました。 その表情を見て、マスターさんも私と同じ気持ちだったということを確信します。 「その、マスターさん……今回はその、お恥ずかしい所をお見せしてしまったわけですが……」 そこで言葉に詰まった私の心を汲んで下さったかのように、マスターさんが微笑みながら口を開きました。 「犬子さん……楽しかったですか?」 「は……」 感情回路が高揚し、ドッグテイルがぶんぶんと起動します。 そして私はその気持ちを押さえつけずに、勢いよく応えました。 「はい! とっても楽しかったです!」 マスターさんは、満足げに頷き。 「そうですか。僕も同じ気持ちですよ」 「はい!」 ……要するに。 お互いに楽しかったけど、負けてしまった手前、手放しで喜ぶのは相手に悪いようで気が引ける、と二人ともが考えてしまっていたようで。判ってしまえば笑い話ですが、判ってしまった以上、もはやお互いの気持ちをさえぎるものはありません。私たちは堰を切ったように会話が弾みだしました。 「ええ、負けてしまったのは残念です、悔しいです。でも初めて戦うことが出来て、『悔しい』の何倍も『楽しかった』というのも正直な気持ちで!」 「そうですね、僕も犬子さんが戦ってる間、手に汗握る想いでしたよ」 「私もです! ええ、もう、脚部パーツを交換したばかりなんて言い訳する余地なんてカケラもないくらいにけちょんけちょんでしたが、こう、相手の攻撃を待つ緊張感とか、狙いを定める興奮とか!」 「ええ、こんなにドキドキしたのは久しぶりです」 「それにほら! 中盤に一度、私の吠莱の砲撃が当たったじゃないですか! あの時、敵のゲージががくんと減ったときなんか、ものすごくスカッとしました!」 「そうでしたね、あの時は恥ずかしながら、このまま逆転できるんじゃないかとか思ってしまいましたよ」 「あはははは、恥ずかしながら私もです。そんなに甘いものじゃなかったですけどね」 「うーん、確かにその後は、ちょっと残念な結果になってしまいましたねぇ」 「あの時は必死で気が付きませんでしたが……今にして思えば、相手は明らかに場慣れしてましたね」 「そうなのですか? てっきり僕たちと同じ、デビューしたばかりなのかと思ってましたが……」 「デビューしたてなのは間違いないでしょう。ですけど、機動性の高い武装神姫に飛行ユニットをつけてツガルタイプの弱点である中距離を補いつつも得意の遠距離射撃に徹する、あまりにもコンセプトが的確で明確すぎます。 あれはきっと、二体目か三体目か、とにかく明らかに武装神姫に慣れたオーナーによってセッティングから最適を追求して最適な装備を整え最適な戦術を取らせたものですよ」 「ふーむ、僕達のように、右も左も判らない状態で適当に戦っても勝てる相手じゃなったわけですね」 「悔しいですけど、その通りです。すくなくとも、射撃が当たらないなら直接殴ってやる突撃ー、なんて行き当たりばったりじゃ、カモにされるだけですね」 「あはははは、終盤特攻ばかりしてたのはそんなことを考えていたのですか」 「いやお恥ずかしい、もう『頭に血が上っていた』と言う表現がピッタリな状態でした」 「あはははは、武装神姫でもそういう事はあるのですね」 「あるのですよ。 あ、そうだマスターさん、携帯出していただけますか?」 「携帯ですか? はい」 「はい、ありがとうございます。そこで、「お気に入り」から……はい、そこの「神姫ネット」を選んで……あ、そこです! そこから、今の対戦ムービーがダウンロードできるんです!」 「おお、それは嬉しいですね……お、きましたね」 「マスターさん、再生してください!」 「あははは、そんなに慌てないで下さい。ええと、ここを押せばいいのですか?」 「あ、はい、それです……あ、始まりました!」 「おお、まさしく先ほどの、僕たちの対戦ですね」 「うーん、こうしてみると、私って明らかにキョドってますね」 「あはははは、最初ですし仕方ありませんよ」 「あ、食らった」 「もうこの時点で、相手はもう必勝パターンに入っていたのですね……いや、見返すと勉強になります」 「そうですねぇ。もう、こっちは相手の攻撃がどこから来るか察知するのに必死でした。 あ、でも……ほら! ここの攻撃はちゃんと回避できたんですよ!」 「おおー、やりますね犬子さん」 「はい! いえまぁ、この一発だけでしたけどね」 「あはははは。でも、その後も直撃は結構防いでるじゃないですか」 「ええ、もともとハウリンタイプは、回避よりも防御を得意としますからね。思えば最初から、防御を固めるべきでした……あ、ここ! ここですよ! もうすぐあの場面です!」 「アレですね……行った!」 「ハウリングサンダー直撃です!」 「これってそれまでの砲撃とは違いますね?」 「あ、はい、これは吠莱のスキル技で……要するに必殺技です」 「なるほどなるほど、どうりでごっそりゲージを減らせたはずです」 「ツガルタイプはもともと回避に特化している分、防御は薄いですから」 「そうでしたか。こちらとしてはほとんど回避されていい所なしに感じましたが、相手にとっては意外と冷や汗ものだったかもですね」 「そうですねぇ。そう考えると、終盤で短慮に走って特攻なんてするべきじゃありませんでした」 「あははははは、そうですねぇ」 「また食らった……あ、また。むむむ、我ながらひどいものです」 「あははははは、まぁ、今後は気をつける、と言うことで」 「はい、今度はクールにクレバーに戦ってご覧に入れましょう」 「その意気ですよ、犬子さん」 「はい、ありがとうございます……あ、ここ! ここです! なんとか懐に飛び込めて、殴り飛ばせるかと思ったんですが」 「接近は出来ましたが、残念ながらそこまででしたねぇ」 「うーん、あそこで拳に捉えることが出来ていたら、その後の流れももう少し変わっていたのかもですが」 「うまく逃げられちゃいましたねぇ。いや、惜しかったです……と、ここまでですね」 「マスターさん、もう一度再生していただけませんか?」 「もちろんいいですとも。ええと、これでよかったですよね?」 「はい、そうです……うーん、私は開始直後キョドってましたけど、こうしてみると相手は落ち着いてるのがよくわかりますね」 「犬子さんの分析どおり、と言うことなのでしょうね」 「そうだと思われます。……あ、もう、我ながら鳩が豆鉄砲食らってるみたいな顔して!」 「この時は、まだ敵を捕捉していなかったのですか?」 「恥ずかしながら、その通りです。あ、ここでやっと敵を見つけて応戦を始めるんですが……」 「うーん、ことごとく外してますねぇ」 「少なくとも、カリカリに回避重視の敵に当てるには、修行が足りませんでした」 「その辺も今後の課題ですねぇ。あ、そろそろですよ」 「そろそろですね」 「………………………………」 「………………………………」 「「ハウリングサンダー!!」」 「あははは、つい僕まで叫んじゃいました」 「必殺技を撃つ時は、叫ぶのがお約束ですよ」 「……ううん、よくみると相手も、わりと焦っていますねぇ」 「あれだけゲージが削られれば、仕方ないでしょうね」 「冷静に考えればまぐれ当たりと判るんでしょうけど、まぐれでも何でも当たれば危ないと思えば、なかなか冷静にはなれないものですよ」 「なるほど、さすがマスターさん」 「あ、特攻が始まりましたね」 「うー、お恥ずかしい……」 「いえいえ、犬子さんはよく頑張りましたとも」 「うう、お言葉嬉しいのですが、我が事ながらそれは甘やかしすぎと思うのですよ」 「いいじゃないですか、反省会はもう済んだのですから……あー、惜しい!」 「『当たらなかった』というのは百も承知の上なのに、ついつい当たることを期待しちゃいますねー」 「この次は当てて見せてくださいね?」 「はい、お任せください!」 「と、ここまでですね。もう一度見ましょうか?」 「はい、是非!」 そんな風にして。 マスターさんと私は、携帯のバッテリーが切れるまで、何度も何度も私の初陣ムービーを再生し、いつまでもいつまでもはしゃぎ続けたのでした。 <そのきゅう> <その11> <目次>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1061.html
第7話 「隻脚」 俺がルーシーの存在をちょっと意識してからさらに数日後、お待ちかねの補助シリンダーが到着。 口には出さないが、コイツもワクワクしているようだった。 さっそくバリバリとダンボールを開いてみると、梱包材に埋もれるようにして不透明なプラスチックの箱が入ってた。 ……そういやネットにもシリンダーそのものの画像はアップされていなかった。 公式ライセンス商品だってんで疑う事もなく買ったけど、現物を見るのはこれが初めてだ。さて何が出るやらと開けてみると…… バッタの足が入ってた。 「うぁキモチ悪っ」 反射的に箱ごと投げ捨ててしまったが、フローリングの床にぶつかる寸前にルーシーがダイビングキャッチ。 「何してるんですか何やってるんですかまったくもー!」 「いやナニって」 「注意書きがあるんですから、ちゃんと目を通してください!」 プンスカ怒りながら彼女が差し出したのは、『非常に小さなパーツですが精密機械ですのでお取り扱いには注意を云々』みたいな事が書いてある小さな紙切れだった。 ……が、俺はこういうのに注意を払わない性格なので無視。 「だってお前それキモーイ」 さすがに本物でこそないが、見れば見るほどリアルすぎる。 ガキの頃によくイタズラして遊んだゴムのおもちゃみたいなチャチなのじゃなく、まるで本物からむしって来たみたいな感じだ。 つか『武装神姫』のイメージと全然違う気がすんだけどな。 ルーシー自身も間近で見たそのリアルな造形に一瞬動揺したようだったが、何とか平静を保つ。 「……外見はともかく、性能はまともなはずです」 ネットショップに画像がなかったのも分かる。 こんなキモグロデザイン見たら買うヤツぁいない。 グズっててもしょうがないんで、イヤイヤながら補助シリンダー(という名のバッタの足)デカ足に装着してやる。 つっても細かいチューニングなんかはルーシー本人が自分でやると決まってたんで、俺の仕事はこれでおしまい。 ヒマなのでちょいとお茶の準備でもしようかと立ち上がった所に、本日2度目のインターホン。カメラモニタを見ると、さっきのとは別の運送屋だった。 ハンコを押して受け取った小さな箱には『武装神姫初回登録記念粗品』とある……あぁ、そーいえば何だかパーツ1個サービスしてくれるんだっけ。 部屋に戻ると、既に調整が終わったらしいルーシーが笑顔で出迎えてくれた……ちくしょう、なんかいいなぁこういうの。 「何ですかそれ?」 「登録した時のサービスだとさ。 開けてみ」 テーブルに置いた箱を嬉しげに眺め、俺とは逆でそっと静かに開封していく。 こういう所も女の子って感じなのかねぇ? 顔がニヤケそうになる反面、またイヤガラセみたいなデザインのアイテムだったら速攻で送り返してやろうと思っていると、「あっ」という声と共にルーシーの顔が綻んだ。 続いて嬉しげな旋律で言葉が流れ出す。 「見てください、『カロッテTMP』ですよ。 基本装備のリボルバータイプ・ヴズルイフの弾数には不安があったのでこれは幸運というべきでしょうね。 あまり高価な品ではないですがコンシールド性に優れたスタイルに加えて小型ながらも赤外線スコープにスライドストックが付いてますから、ライフルほどではなくともある程度の精密射撃が可能です。 もちろん弾数はハンドガンとは比べ物になりませんから牽制にも充分使えます」 ……いっくら綺麗な声で歌みたいに滑らかだって、まさしくマシンガンさながらに喋られちゃ聞いてるだけで疲労が溜まる。 しょうがないのでこっちは「へーそーなんだーすごいねー」とかテキトーに相槌。 だからマニアトークは苦手なんだってば…くそ、俺の淡いトキメキを返せ。 そんなこんなで一応カタチは揃った。 装備はほとんど基本のまんまだが、最初持ってたリボルバーは今回手に入ったサブマシンガンに変更。 そして左足は予定通り素体のままで、右のデカ足に添えている。 角度によっちゃ足が1本しかないようにも見えて、妹の「古今(中略)辞典」に載ってた『カラカサオバケ』とか『イッポンなんとか』みたいな感じだ。 リアルなバッタの足がくっついてる事もあって、ヨソのサイトで見るカスタムタイプに比べると正直言って不恰好かなとも思ったが……本人に気にした様子はない。 ま、コイツが気に入ってくれるのが一番か。 ……ホント、今の俺って骨抜きだ。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2785.html
与太話14 : 能力って何かね 怠惰って素晴らしいと思う。 だって私たち、武装神姫よ? 名前に「武装」なんてぶっそうな(武装がぶっそう……ぜんぜん面白くないわよ)言葉がついてるもんだから、レディの細くて長くてスラッとした素足にストライカーを履かされたり、か弱い細腕に機関砲を持たされたりするわけよ。 人工AIの倫理的問題がどうとかいう前に、レディにドンパチさせる人間の――特に男たちの正気を疑ったほうがいいわ、絶対。 ……なんて文句をつぶやいっターで発言でもしたら、私の根本的な存在意義を疑われるわけで、可哀想なホノカさんはこうして貸切の茶室で一人ダラダラするしかないのである。 怠惰って素晴らしいと思う。 週刊少年ジャンプを読み終え、特に用事もなくコタツでぬくぬくしている時間こそ、常日頃から戦闘を余儀なくされる私たちの唯一の癒しなのだ。 データで構成された茶室の外はちゃんと冬仕様になっていて、はらはらと舞い落ちる色づいた枯れ葉はそろそろ雪に取って代わりそう。 合わせて室内の気温も低いけど、それがコタツのありがたみをいっそう際立たせている。 前半身をコタツにつっこんで、ひんやり冷たいテーブルにほっぺを乗せて、さながらホットコーヒーにアイスクリームを乗せるような贅沢を味わえるのだ。 な~んにもしないで、ただ、ホカホカぬくぬく。 外で積もる枯葉が重なっていくほど私のまぶたも重くなってきて、うつらうつらと、夢の世界へ手を引かれていく。 何も考えずにその手を取って、スリープモードに入ろうとした、その時。 「突然失礼する。ゴクラクだ。セイブドマイスター殿は今週のジャンプを読まれたか?」 私たち武装神姫はどうやら怠惰すら許されないらしい。 ◆――――◆ 「そう嫌がらずともよかろう。今日は世間話をしに来ただけだ」 正方形のコタツの、私から見て右側に勝手に座り込んだゴクラクはテーブルの上にミカンヂェリーを2つ置いた。 コタツの中でストライカー具現化させて蹴り飛ばしてやろうかと思ったけど、ミカンを出されては仕方がない、今日のところは勘弁してあげよう。 キャップを開けて一口飲むと、温まった体の中に気持ち良い甘さと冷たさが流れていくのを感じられた。 私と同じく一口飲んだゴクラクはヂェリ缶を置いた。 「セイブドマイスター殿はめだかボックスを読まれているか?」 「は? あ、うん、読んでるけど」 「それは重畳。ところで今週号の話はどうにも納得し難い部分が多かったとは思われないか?」 今週号は第173箱、タイトルは『歌とはなんだ?』である。 ネタバレが嫌な人はここから先は読まないで欲しい。 ネタバレが嫌な人はここから先は読まないで欲しい。 ネタバレが嫌な人はここから先は読まないで欲しい。 「いきなり言われてもねぇ。……そうだ、あのサブマシンガン。あれ絶対おかしいわ」 外観、構造、威力、装弾数など、どれもイチャモンをつけたかった。 ピカティニーレールが付いてたから実在するものを参考にしたんだと思うけど、それならもうちょっと何とかならなかったのかしら。 素直にH K社のマシンガンにでもしとけばよかったのに(利権的な問題があるかは知らないけど)。 ひとたび思い返すと文句を吐き散らしたくなったので、丁度良い話し相手に言おうとしたのだけど、ゴクラクは「いや、それもあるがもっと別の部分だ」と遮った。 「何よ、どうせマンガだから銃火器の理屈なんてどうだっていいって? ピストル弾をしっかり連射できることがどれだけ素晴らしいか分かってないみたいね。あのね、サブマシンガンが重要視されたのはそもそも――」 「いや大丈夫だ、勿論心得ている。我はこれでもちょっとした神姫団体を管理する立場にあるが故、武装についての最低限の知見はあるつもりだ。我が問いたいのは黒神めだかが最後に使用したスタイルについてだ。我が共振を武器とすることを覚えておいでだろうか?」 「コノヤロウまた私に恥かかせたいらしいわね」 前回ゴクラクと会った時、自分の能力をひけらかすようにペラペラとしゃべって、チンプンカンプンだった私を置いて去っていった。 あの時の恨みがよみがえる。 また私をバカにしに来たのかコンチクショウ。 「世間話をしに来たと言ったであろう。そう興奮されるな。ほら、ヂェリーは如何か」 飲みかけだったヂェリーを勧められて、私はそれを一気飲みした。 ちょっと温くなってたけど甘さは変わらず私を癒してくれて、もうゴクラクのやつ早く言いたいこと言って帰ってくれないかなあと思うのだった。 「それで、黒神めだかとあんたが何だって?」 ◆――――◆ 「うむ、どうやら黒神めだかのスタイルが我と同じ共振を利用するもののようだ。言霊の力を利用するらしいスタイルとやらは本質的には喉から発せられる振動を利用するのであり、その振動を増幅させたり、また感情的にシンクロするという意味での共感も極めて有効であろう。そもそも何故共振という現象が発生するかというと、世の中に存在するシステムを数式化しようとすると二次遅れ要素とむだ時間要素に近似できる場合が多く、そのゲイン特性はある一つの周波数で増幅されるのだ。単純な鉄の塊で構成された機械であっても叩いてやればある周波数で顕著な反応が見られ、また様々な要素によって成る物であってもある一定の入力を与えてやればそこからむだ時間の後に反応が始まり、収束に向かうまでをデータ化することで固有振動数を分析することができる。勿論それらは単純ではなく誤差を多いに含むため理論通りに上手く事が運ぶことは皆無といってもよいが、逆に理論だけを語るならば共振とはさほど難しいものではなく、あくまでシステムのあるがままを表す現象なのだ。黒神めだか――いやめだかボックスの原作者も我と同様、そこに目をつけたのかもしれない。しかしだ。我が武器として扱えるのは『共振』であって『共感』とはまったくの別物だ。大辞林によると共感とは【1.他人の考え・行動に、全くそのとおりだと感ずること。同感。 2.他人の体験する感情を自分のもののように感じとること。 3.感情移入】とある。つまり『共感』が対象とするものは感情を持つ『者』であり、『共振』が対象とする感情を持たない『物』とはまったくの別物となる。まだ科学が発達していない時代の言い方をすれば有機物と無機物の違いだ。即ち我の見解としては、『共振』と『共感』を一つの能力として扱うことは不可能なのだ。いや、それができれば我も苦労しない、というところが本音なのだがな。武装神姫の頂点の一角とされる『デウス・エクス・マキナ』の一人とされておきながら泣き言を言うのは恥ずべきことだが、フィクションの自由自在さには敵わない。――フッ、このような情けない姿は部下の前には晒せない。セイブドマイスター殿はその点、相手の心を開く鍵となる『共感』の能力に優れているのかもしれないな」 ◆――――◆ 「……………………………………………………ふぁえ? あ、うん、そうね、あんたも大変ね」 「ご理解感謝する。長話にお付き合い頂きすまなかったが、我も少しは気が晴れた。これは余り物だが」 そう言ってゴクラクはミカンのヂェリ缶をさらにもう2本テーブルの上に出して、「では、また」と茶室を出ていった。 なんだか長々と一人でしゃべってたけど、結局あいつは何しに来たんだろう。 ま、被害もなかったしミカンヂェリーくれたし、どうでもいいか。 さてと、また充実した怠惰な時間を過ごしましょうかね。 先日ボークスに行ったら人魚型とかませ犬型神姫のリペイント版が山積みになってました。 それよりもっと売るべきものがあるだろうに……などとボークスや電撃に文句言ってもしょうがないのですが、もうバイク組の発売は絶望的かしら。 フランベルジュ、コルセスカなんてどうなっているのやら。 ガルガンチュアに至っては覚えてる人すらいないんじゃ……。 きっぱり諦めて忘れて、ストライクウィッチーズのマルセイユの発売を心待ちにしま――しょうかな? 15cm程度の死闘トップへ